vnorioの手製本

手製本の世界を紹介していきます

綴葉装『おふじさん』

10年前のこと。

富士山麓の御殿場南高の卒業生で、小山町立図書館の館長Tさんから電話が来た。
「昔の授業を再現しませんか。卒業生や近隣の方にもお声をかけます。1時間でテキストを作って、後半の1時間でそのテキストを使って授業をするというのはどうでしょうか。作業をするので定員は20名にします」

 彼とは毎年の同窓会で会っていた。その場で「やってみようか」と返事した。

事前の準備には時間がかかった。

まずテキストの内容だ。当然のように富士山に落ち着いた。今は何事もなくそこにある富士山だが、煙をはいていたころから富士山を昔のひとはどのように眺めていたのか、古代から近代まで歴史的に辿ってみようと思って資料をあつめた。

テキストの形式

内容から考えて和綴じ、それも四つめ綴じ以前の古代・中世の綴じ方である「綴葉装」を考えた。柔らかな手触りでページの開きもいい。ただ1時間で作るのは厳しい。半分ほどは事前に下拵えしていかなければならない。それも20人分だ。

出掛ける前日の夜、気がついて材料を加えた。しかしそれを机の上に置いて、出発の当日の朝、忘れた。そのミスは案の定実習の時に響いて、テキストづくりの時間を延長するはめに。折角作ったテキストの内容の授業は半分に端折った。

自分たちでテキストを作って、それで講座をすすめるという形はその後いろいろな機会で役に立った。

さらに道具や材料をすべて持ち込みで作業をするので、「忘れ物」は絶対に避けなければいけない。肝に銘じたが、その後もその失敗を繰り返した。そのたびに、受講された方々の温情あるご理解に救われたが、「忘れ物」ということばは今でもトラウマになっている。

 

司書のかたがこんな丁寧な案内状を作ってました。

 

綴葉装綴じは開きが抜群にいいのです。書き込みする余白を多く取りました。

 

表紙には友禅和紙。

 

背に糸を通す切り込みを入れているところです。

 

そろそろみなさん仕上がった頃です。

 

全員で記念写真です。

 

夕暮れ迫る

小山町図書館から富士を仰ぎながら帰途につきました。

 

あれから8年、『おふじさん』はいくつかの加筆と訂正をほどこして

『火の山のものがたり』として再登場した。綴葉装の綴じ方も仲間で研鑽を重ねた。

『火の山の物語』・本文は書籍洋紙B5判 115p 表紙はミューズコット紙

 

和綴じの特色として、糸の最初と最後の処理の仕方にも美意識が表れる。なんとか再現しようとして最後の処理の仕方に挑んだが、シンプルでそれでいてしっかりと結び合わされていて美しい仕上がり、とまではいってない。